EQは「感情能力=感じる能力」といわれ、私たちが日常生活で普通に使っている能力です。
自分や相手の気持ちを感じたり、前向きな気持ちをつくったり、気持ちを切り換えたり、カッとなったときには冷静になるよう上手く感情を管理したり利用しています。日本では、「心の知能指数」として広まり、企業における人材育成や学校教育、医療分野まで幅広くEQが広まり、活用されています。
EQにはスウィッチがあり、ON・OFFとレベル(1~10)があります。相手との関係性やその場に相応しい感情をつくるために、スウィッチングをし、レベルを調整します。強固な信頼関係があればスウィッチOFF、反対、敵対勢力と関係性を築くためには、スウィッチONかつレベル10が求めらます。
学術的にはEI「Emotional Intelligence」理論として、1990年、現エール大学学長を務めるピーター・サロベイ博士とニューハンプシャー大学心理学部教授のジョン・メイヤー博士によって提唱されました。
彼らが着目したのは、心理学の立場から、ビジネス社会における成功の要因とは何かを探ることでした。その能力指標のひとつとして有力視されているのが修士や学士といった学歴です。このため、学歴が高い、すなわちIQ(Intelligence Quotient =知能指数)が高い人材がビジネスでも成功すると一般的に考えられてきました。しかし、IQが高くともビジネス社会で成功しない人もいます。
では一体、ビジネスを成功に導く能力とはいったい何なのでしょうか。IQが一定の役割を果たしていることは間違いありません。しかし、それ以外に成功のために必要な能力はなにか。両博士は、ビジネスパーソンを対象にした広範囲な調査研究を行ない、明らかになったのが「ビジネスで成功した人は、ほぼ例外なく対人関係能力に優れている」というものでした。
ビジネス社会で成功した人は「自分の感情の状態を把握し、それを上手に管理、調整するだけでなく、他者の感情の状態を知覚する能力に長けている」というものでした。社外との関係も上手く維持、調整することができ、社内的にも多くの協力者を得ることで、結果的に成果を生み出していたのです。
これらの調査結果から、サロベイ、メイヤー両博士が提唱したのが「感情をうまく管理し、利用できることは、ひとつの能力である」というEI理論です。
この理論を米国の経済誌「TIME」が長期にわたって特集を展開します。「人生で成功できるかどうか、本当の意味で聡明な人間かどうか決めるのはIQではなく、EQの高さ」「IQvsEQ」「ビジネスの成功は20%IQと80%のEQである」「IQよりEQ?」など、IQの対極として、分かりやすくEQという呼称で紹介し、多くの特集が組まれ、米国経済界が注目し、世界的にEQが広がっていきます。
2016年、世界経済フォーラムで初めてEQが登場します。
世界経済フォーラムでは毎年「5年後に求められるビジネススキル」について議論され、ベスト10ランキングの第6位にEQが選ばれます。
その後、2018年の基調講演で、阿里巴巴集団 (アリババ)会長 ジャック・マー(馬雲)氏が、「前世紀、人々は力で競い合い、この世紀は知恵で競っています。今、もし成功したいのなら、高い心の知能指数、EQを持つべきだと信じています」と講演でEQに注目が集まりました。
2020年、「5年後に求められるビジネススキル」で再度EQがランキングされ、分変的なビジネススキルとして世界が認めました。
【世界経済フォーラム [ダボス会議]】
正式名称:世界経済フォーラム(World Economic Forum=WEF)
本部:スイス・ジュネーブ
利害関係に関与しない独立・公正な組織であり、世界の大手企業や主要団体が加盟する非営利の公益財団である。
あらゆる主要国際機関と緊密に連携して活動している。
(スイスのダボスで実施されることから通称「ダボス会議」と呼ばれ、日本からも政府関係者や多くの企業、個人が参加している。)
会社起点の時代から、個人起点の時代に社会が変わりました。
会社起点の時代では、IQや性格が重視されましたが、個人起点の時代では、個々の気持ちが大切にされます。
ダイバーシティ、心理的安全性、エンゲージメントも、個人の尊重を実現する中で生まれた言葉であり、個々の価値観や感情にフォーカスされる時代に変わりました。
それらのキーワードは右脳への転換であり、右脳がより求められます。
会社起点に回帰するか。左脳領域はAIの得意分野であり、人間ならではの情緒的なスキルや知性を必要とする分野以外はAIが担うことでしょう。
EQは様々な分野に広がりをみせています。
企業においては「健康経営」「働き方改革」がテーマとなり、経営的には「イノベーション」推進が課題となっています。
従前の方法では限界があり、解決の糸口としてEQが注目されています。
教育分野では、「非認知能力」としてEQが注目され、SNS上でのいじめ問題の解決に活用されています。
医療分野では、生活習慣病や糖尿病予防、対策にEQが活用され、健康診断の代謝データとEQとの相関性があることから、健康管理、増進を目的としたEQトレーニングに注目が集まっています。
現在、1500社を超える企業、団体、学校などでEQが導入されています。